大判例

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大阪地方裁判所 昭和43年(わ)929号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(事実)

被告人は中学卒業後親戚の食堂経営の手伝いなどをしたが長続きせず、昭和四一年一〇月ごろ上阪して新世界の共栄パチンコ店に住み込み店員として勤めるようになつたが、間もなく同店炊事婦宮本滝子と知り合い、同年一二月ごろから大阪市浪速区恵美須町一丁目一番地中出アパートの宮本方居室で同棲するようになつた。ところが翌四二年五月ごろ宮本が妊娠し、子供を生む、生まないで意見が合わなかつたことから、被告人は同年六月ごろ宮本のもとを飛び出して上京し、パチンコ店々員、露天商手伝いなどをしていたものの腰を落ちつけることができず、同年一二月ごろ宮本が子供を堕したことを知つて再び宮本のもとに帰る気になり、宮本から帰阪の旅費の送付を受けるなどして大阪に舞い戻り、以前同様主として宮本の収入に頼つて同棲を続けていた。

ところが、翌四三年三月一日ごろ被告人が上京中に知り合つた吉原幸子(当一六年)が被告人をたずねて来阪したことから宮本との間にいざこざを生じたが、結局同月七日になつて、宮本の主張どおり吉原を翌八日郷里に帰らせること、その旅費等として宮本が一万円を工面してやることで話がついた。しかし、翌八日被告人と吉原が前記宮本方居室で、宮本が金を持ち帰るのを待つている間に、吉原が「帰りたくない」と言い出したため、若い吉原に未練があつた被告人は宮本と別れて吉原と一緒に暮らすことに心を決め、同日午前一一時ごろ帰宅した宮本に対しその旨を申し出たところ、これに逆上した宮本との間でののしり合いの喧嘩となつたが、その際被告人は、吉原との生活のための当面の手だてとして宮本の工面してきた一万円をおどしとつて行こうと考え、宮本に対し「金を出せ」などと要求し、これを受けつけず逆に被告人と吉原の仕打ちをなじり続ける宮本に対し、同日午後四時ごろまでの間顔面を殴り、襟をつかんで畳の上に倒して馬乗りになり手で宮本ののどを押え、あるいは「金が欲しいか命が欲しいか」と言いながら腰ひも(昭和四三年押第四八二号の一)を首にかけて締めるようにするなどの暴行脅迫を加えたが宮本が一万円の所在を頑強に隠しとおしたため、被告人は根負けして一万円を脅しとることをあきらめたが腹立ちもあつて更に手の甲で宮本の口もとを一回殴りつけ、右一連の暴行脅迫により畏怖している宮本に、同女がかつて吉原に与えるつもりで置いてあつた下着など衣類三点等を持ち去ることを承諾させてこれを喝取したうえ右吉原を伴つて立ち去つたが、右一連の暴行により、宮本に対し全治までに一〇日間を要する頸部皮下出血、約一ケ月の加療を要する外傷性歯根膜炎の傷害を負わせたものである。

(恐喝罪と傷害罪の観念的競合と認めた理由)

検察官は本件について強盗致傷罪の成立を主張しており、判示暴行が主として金を脅しとる目的でなされたこと、判示のように暴行の程度もかなり激しく且つその手段も腰ひもで首をしめるようにするなど高度なものであること、被害者の受けた傷の程度もかなりのものであること、この間部屋のドアに内鍵をかけていたこと、途中宮本は部屋を逃げ出そうとして果たせなかつたことがうかがわれることなどの外形的事実は、いずれも右主張を裏付けるものであり、強盗致傷罪の成立を免れがたい観があることは否定できないところである。

しかしながら、他方前掲各証拠によれば、宮本は被告人と吉原の仕打ちに非常に立腹し、自分を馬鹿にしたということで繰り返し被告人を強く罵倒したこと、被告人と宮本が口喧嘩を始めてから被告人が立ち去るまでには四時間以上の時間があるところ、この間に被告人が判示のように直接的な暴行脅迫に及んだ時間はさほど長いものではなく、吉原をめぐつての被告人と宮本の痴話喧嘩的なやりとりにかなりの時間を費やしたことがうかがわれること、宮本の応接ぶりを見ても、その間問題の一万円札を自分の靴下のなかに隠したり、判示のようにかなりの暴行を受けながらも被告人の「金が欲しいか命が欲しいか」との趣旨の脅迫に対して「どちらも欲しい」と応じるなど、九歳年下の被告人に対して相当の余裕がみられること、被告人においても、脅しが功を奏しないため今度は逆に「荷物を置いておくから金を貸してくれ」と哀願するなどなんとか宮本を言いくるめて一万円を出させようとしていること、頑強に拒む宮本に結局根負けして一万円はあきらめてしまつていること、更に、被告人は宮本と一応一年三ケ月前から同棲していたのであつて(もつとも一時被告人は宮本のもとを飛び出しているが)、犯行当時吉原の出現で同棲生活が破綻に瀕していたとはいえ、なお両者間にはそれ相応の一種の信頼関係が存し、そのために被告人の暴行脅迫がかなりの程度のものであるのに、宮本に対しさほど大きな影響を与えるに至らなかつたことがうかがえること、等の諸事実を綜合すれば、結局、判示のように被告人の宮本に対する暴行脅迫は相当強度のものではあつたけれども、被告人と宮本との関係等からみて、なおいまだ宮本の反抗を抑圧するに足る程度のものであつたと認めるに足る十分な証拠はないものと言うべきであり、また被告人において金品強取すなわち宮本の反抗を抑圧してまで金員を奪取するというほどの故意の存したことについても相当の疑いが残るのであつて、被告人の判示所為につき強盗致傷罪の成立を認めることはできない。

また、弁護人は、本件被告人の所為は夫婦間の痴話喧嘩の昂じたもので、単に傷害罪が成立するにとどまり財産罪は成立しない旨主張するけれども、同棲が短期間であるばかりか犯行当時右同棲関係自体が破綻に瀕していたのであり、且つ宮本は一万円はもとより衣類についても頑強にその提供を拒んでいたのであるから、たとえその拒絶がなかば嫉妬によるものであつたにせよ、暴行脅迫を加えて金品の交付を受けようとした被告人の所為は財産罪を構成するものと言わねばならない。

以上の次第であるから、判示のように被告人の衣類等領得の点については恐喝罪の成立を認めるのが相当であり、なお判示一連の暴行は主として金品の喝取に向けられたものであるから、これによる傷害罪の点については右恐喝罪と観念的競合の関係にあるものと解するのが相当である。(下村幸雄 川上美明 二宮征治)

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